不可説不可説転

早く人間になりたーい

『アイアンマン2』はヒーロー映画にあらず

※本記事は全能感を失ったときヒーローになる はじまりの物語『アイアンマン』 - 不可説不可説転の続編の感想です。

 

アイアンマン2』はヒーロー映画にあらず。されど「青春映画」なり。

 

MCUをブランド化し一気にスターダムに押し上げたアイアンマン一作目からすると、世間的に評価はあまり芳しくない。敵が弱すぎる、話に関係ない、スターク家の血筋の呪いをもっと描けたはずだ、武器商人だった父親が全面的に肯定されるなんておかしい、なんでローディーの中の人変わったの、えとせとらえととせとら。

これらは多分、”ヒーロー”映画を期待しているから起こる事のように思う。

強い敵を前に一度はくじけ、しかしもう一度立ち上がって立ち向かい、すんでのところで打ち勝つ。そういったものへの期待。欲しいのは勝利のエクスタシーであり、強き悪が善に屈する姿である。

そういうものを望んでいた人たちはたいがい肩透かしを食らわされてイマイチな思いをさせられたに違いない。
たしかに、出来ばえで言ったら前作に劣る点があることは認めよう。

しかし、だ。わたくし前中は、この映画が大好きなのだ。なぜならこの映画には、人と上手くつながることができなかったトニー・スタークが、少しずつ周りの人々を見つめ、認め、信頼していく姿があるから。そこが良いんだ。そしてこの輝きは青春映画のそれである。

それにアクションシーンは前作よりもパワーアップしていて、変身シーンもかっこよく、「アイアンマン」としての良さは相変わらずある。メカオタクはメカの数々に歓声を上げる事請け合いですぞ!

 

まあ、まずはアクションですよ

青春映画だとか言ったけど、やっぱりまずはアクションの話しがしたいんだ。だってオタクだもの。

今作のアクションは前作からさらに質・量を大きく向上させている。
なんとあの名アニメーター(デクスターズラボとかパワーパフガールズ!)のゲンディ・タルタコフスキー氏がストーリーボード担当として参加しているのだ!!アイアンマンではフルCGのアクションも多用されるので、アニメ独特の外連味を熟知しているゲンディ氏のセンスによってさらにパワーアップしている。つまり、「画」がめちゃくちゃかっこいいのだ。
そこにジョン・ファヴロー監督の整理力とアーマーの魅力を存分に引き出すセンスが掛け合わされて、素晴らしい爆発力を生み出している。

なにより、桜が舞い散る日本庭園で、敵に囲まれたアイアンマンが親友のローズ中佐と背中合わせに佇む姿のなんとカッコいいことか!メカメカしいアーマーと侍のような渋いシチュエーションの掛け算に唸らされる。もうこの画で十分百点満点でしょう、この映画。
さすが、信用できる男たちの仕事ぶりは絶品である。

乱闘中、敵を前にひとり立ちふさがった少年を助け「なかなかやるな」という姿もぐっとくる。これぞ憧れの存在、ヒーローだ!

 

カッコいい変身シーンとメカたち

アイアンマンの楽しみの一つは、毎回異なる変身シーンと言っても過言ではない。

今回も驚くべきアイデアがあってとても楽しい。なんとスーツケース型のアーマーが登場するのだ!どうやって変身するかはぜひ観ていただきたい。メカらしい動きで力強く最高にかっこいい。

さらにあの可愛いロボットアーム達も再登場する。しかも今回からそれぞれのアームに「DUM-E(ダミー)」と「U(ユー)」という名前が刻まれているのだ。トニーの愛情がうかがえてなんだかほっこりしてしまう。

それ以外のガジェットも超パワーアップしている。
例えばトニーの携帯はなんとただのガラスの板になっていて、青い光が映えて未来的でカッコいいデザインになっているし、自宅のラボ全体にホログラムが表れて、それを触ったり投げたりして設計図を作ったりシミュレーションを行ったりする。

金持ちうらやましいという気持ち以上の夢を見させてくれるのは、間違いなくアイアンマンの魅力の一つだろう。

もちろん、楽しそうにメカをいじるトニーの姿も健在だ。
作りたいものを作るために、なんの躊躇いもなく高そうな家の壁や床に穴を空けて巨大な装置を作るし、飛び出す光線が家具をめちゃくちゃにしてもなんのその。この無邪気さが前中は大好きだ。だって好きなことに夢中になってるときは周りなんて見えない、そういうところが自分と同じだって思うと、どうしたって共感せずにはいられない。

トニーはすかしただけの、いけ好かない男ではないのだ!

 

トニーの成長

実は一作目より「トニーの成長」という部分が丁寧に描かれている。

これは長年トニーに寄り添ってきた秘書のペッパーに、父の友であったオバディアにすら譲らなかったCEOの座を譲り渡す姿に象徴される。人を信じようとするトニーの試みも勿論あるが、ずっと一緒だったペッパーと別れて一人立ちするという意味でもあるのだ。
むしゃくしゃすることがあって気晴らしにどこかへ行きたくても、これまではペッパーがどこへでも一緒についてきてくれたのに、彼女にはCEOとしての責任があるから、もうそういう事はできない。厳しい一言をぴしゃりと言われてうなだれる姿が痛々しい。
(もっとも、譲った当初はこの部分に考えが至っていなかったようであるが、そういうある種の幼さがトニーの魅力だと前中は思う)

そうやって一人になってみて初めて、トニーは周囲の人々がどんな人たちであるかを見つめ、本当に大切な人とはなにかについて考え始める。

この部分は唯一の親友であるローズ中佐ことローディが大きな役割を果たす。
トニーの周りには、彼をちやほやしてその才や財にあやかろうとする人間がゴマンといる。
だけどローディはトニーを甘やかさない。でも心からトニーを思いやる人物だ。だからこそトニーに面と向かって間違っていると言うし、本気で怒るし、喧嘩だってする。ほっとくのが一番簡単なのにそうはしないのだ。

それでようやく、トニーは信じるべき人とはどういう存在なのかということに思い当たる。



※ここからネタバレ入ります

 

死にゆく我々が未来に遺せるもの

今作のヴィランであるイワン・ヴァンコはトニー・スタークと紙一重の存在だ。
同じように父からアーク・リアクターを受け継ぎ、確かな才能を持っていてパワードスーツを自力で開発することができる。
では一体、なにがふたりの運命を決定したのだろう。

彼らの明暗を分けたのは、なにが遺されなにを受け継いだのかという点である。

イワンは物語冒頭で、父からリアクターの設計図と技術や知識を受け継いでいることが分かるが、それ以外に遺されたものと言えるのはスタークへの怒りと憎しみだけであり、彼はトニーを殺すことだけを目的として復讐に燃えている。
達成したのちには何も残らないものだ。

対してトニーは、偉大過ぎる父ハワードに自分は軽んじられているというコンプレックスを抱えてこれまで生きてきたが、物語中盤で実は真に愛されていたことを知る。そしてハワードがトニーを信じ、新しい技術を託すべく新元素のヒントを残したことが分かるのだ。
ここには、自分が死んだのちも生き続けることになる未来の息子ために、最良のものを残そうとする愛がある。
そしてその愛が示すものは、考え方であり、姿勢である。達成したのちも新しい道が示され、さらにその先に新しい道が拓かれるものだ。
だからこそトニーは「まだ私に教えてくれるのか」とつぶやくのだろう。

これによってトニーは過去から解放され、仲間の手に頼ることを学び、敵と対峙する。
相変わらず父という過去に囚われ続けているイワンは、だからトニーに勝つことができないのだ。

 

他者を受け入れて生きるということ

もう一つ、イワンがトニーに勝てない理由がある。

それはイワンが周りの人々を拒絶し続けたからである。
彼に手を貸すトニーのライバル、ジャスティン・ハマーは、下心があるとはいえ手を差し伸べてくれた。ここでこれまでの人生を見つめなおし、あくまでも技術によってトニーと勝負することを決意していたのであれば、違った結末を迎えられたかもしれない。
でも憎しみに囚われているイワンはハマーを拒絶し、独りよがりにトニーの抹殺を目論み、自分で操作するドローン軍団を生み出す。
ハマーを見下し裏切ったのだ。(確かにハマーは技術者としてはポンコツでどうしようもないやつだが)

反対にトニーは、一度は差し出された手を拒絶してしまうが、孤立してはじめて自分の周囲の人々に目を向ける。
本当に重要なのはなにかを考えてようやくローディの置かれた立場に理解を示し、アーマーを持っていかせる。ここに他者を信じ受け入れることが示さている。そしてそのきっかけとなった大喧嘩で見つけた、お互いのビームをぶつけると極大威力の爆発が起きる事が勝利の布石になるのだ。

イワンがふたりのコンビネーション技を前に敗れるのは、つまりそういう事だ。
他者を信じ受け入れられるかが今作の鍵であるから、イワンがヴィランとして強いか弱いかはあまり関係ない。

そして周りに目を向けた事で、やっとペッパーがCEOになってどれほどプレッシャーを背負い辛い思いをしたのかを理解し、彼女を支える事を宣言することでついにふたりは結ばれる。
長かった彼らのつかず離れずの関係は、ここにきてようやく重なるのだ。

 

そしてアベンジャーズ

本作は他作品のヒーローたちをアベンジャーズへつなげるための重要なブリッジとしての役割を与えられている。
トニーはアベンジャーズ結成の中心人物のひとりだ。
個性的なヒーローたちとの共演を前に、未熟なトニーが大人になる過程を描いた本作の立ち位置はヒーロー映画としては異質だが、だからこそ面白い。

成長したトニーがどんなふうに振る舞うか、その成果はぜひアベンジャーズで確認してほしい。

 

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